群舞 渡辺美輪選 2013年11月(抜粋) 



まろやかになるまで煮込む傷の跡   大阪 香月みき
そんな日もありましたねと空は青
泣いてからすぐ笑うのもいいところ
まあるい声で花の香りを呼びよせる
行く道に編み込んでいる水の音

あっという間に頭から尻尾まで    兵庫 中川 浩
あれは夢背伸びしたとき触れたもの
見下ろすと五階はちょうどいい高さ
踏ん張って目覚まし時計鳴っている
寂しいと言って背中を向けられる

タオル地のハンカチ号泣の予定    大阪 久保田 紺
ほんまもんの男とほんまもんのビール
安いほうはあなたにあげるために買う
もういいよって下げてもらう視力
かわいそうな話でお待ちしています

紙飛行機飛ばす いい人乗せてこい  香川 門田 浩
枯れてなぞおれぬ始発のバスに乗る
妄想の種がぴこぴこ跳ねる夜
咲いてやる誰も知らない外国で
髪乱す風を憎んだ青年期

神の手の届かぬ先にあるボタン    秋田 西村良子
君のせいばかりじゃないよ星のせい
手ぶらでは行けない夢を持って行く
居座って夢を追い出す隙間家具
星になるために磨きを掛けている

変わらないもん変われないもん頑固でね 滋賀 安井茂樹
それはそれとして新米の旨いこと
手拍子一つあれば踊ってしまいます
これでいいこれでいいよと土寄せる
月を見るもっと淋しくなるように

風強し電線ビュウと夢を吐く    富山 新井恵子
泣くことはないさと立っているポスト
夜の公園うっかり返事してしまう
幼子の体に紛れ込む未来

朝へ行くはかりごとなく音もなく  熊本 野上藪蔵
サンダルで散歩している妥協点
足早の君をゆっくり連れ帰る
一年で少し動いたらしい石

この世は暗いから十五夜の月と生き 東京 沢井 啓
エンディングノートには鳥葬と書いてみる
ビルの谷間で小さくなっている氏神様

両脇に余分なものがついてくる  兵庫 三好敦子
まかせると言われた方が楽になる
コスモスに癒されて拭く夏の汗

言い分をじっくり聞いて深呼吸     福岡 大月恵子
カレンダー今日の予定が光り出す

来年の雨まで連れて野分くる      香川 喜田みなみ
テーブルのゆれる灯りは恋を聞く



他 78名作品掲載


BACK