エッセイ・読み物から
*作家紹介・中川浩
中川浩自選50句「昭和」 より
もう過ぎてしまった昼という時間
E・Tに似てきた 老人に似てきた
背に影の気配八月十五日
行間を埋めきれない蝉の声
骨の鳴る音よ明日よあさってよ
鳥だった記憶などない歩くなり
丸いものぽんと捨てればぽんと音
キャラメルのエンゼルここにまだ昭和
中川浩自選50句「昭和」を読む 野上藪蔵
浩さんとは面識がない。だけど、中川浩という活字では旧知の感覚を持つ。句は読みやすく音声にしてもなめらかで、放たれた言葉の形のまま読み手の中に入り込む。
句の姿として終止形や連体止めにての言い切りに微妙な関西訛りの語りが加わる。その背後に逡巡、反実仮想、本音のつぶやき、諦観などがちりばめられながら、世の男としての欲望も正直に顔を出し、ある種の安心感を与えてくれる。
つるつると平明な表現を呑みこんだあとしばらくたつと、川柳への愛ひいては生けとし生けるものへの思いが開いてくる。
中川浩さんインタビュー (抜粋)
中川 浩さんインタビュー
(二〇一三年九月から十月にかけて:兵庫県明石市他)
●お生まれは台湾ですね。
両親とも明治生まれで父は警察官。どうも内地では芽が出そうにないと外地勤務を願い出たのだと母から聞いています。昭和十九年応召、十二月、北部ルソン島沖でアメリカの潜水艦からの魚雷攻撃を受けて乗っていた輸送船が沈没。行年三十八歳でした。父の記憶は少ないのですが、大広間の宴会で父の膝に抱かれていたのを覚えています。あれは父の壮行会だったのかもしれません。
尾道生まれの母が通った小学校は林芙美子も通った小学校だったらしいのですが、どう贔屓目に見ても文学の気配はないおふくろでした。
●作句心がけておられることは?
17音でスケッチができればいいな、と。リズムがあって絵が浮かぶ川柳です。平易で的確な言葉を捜すことにも四苦八苦しています。しっくりとする言葉が見つからないと、できかけのまましばらくねかせる。そうするとなにかの拍子にどっからか落ちて来るというか、ひょいと出て来ることがある。あとは、句のたたずまいを大切にしたいと思っています。
*中川浩さんを大解剖。川柳に入ったきっかけは、作句のスタンスは、今後の展望は……。中川浩さんの川柳人生をご覧ください。
*前号この一句
選者・小川敦子
おとうとに罪を被せた日の微熱
作者・金子喜代
今日は、珍しく下のおとうとが叱られた。本当はあれ、私が犯人なんだ。もちろんわざとじゃない。でも、言い出せなかった。
あの子ら、いつも自分達がやったこと私に被せて涼しい顔してる。可哀想なんて思うな私。いい君だ。なのに、何で熱が出るんだ。
長女って、やっぱり、損だ。
選者・清水 釦
イケメンじゃないが裏切らないようだ
作者・沢井 啓
昔っから言うでしょう、誠実が一番、見かけより中身ってね。それに美形は見てる分にはいいが、毎日見てりゃそれも飽きてくるよ。なんて科白がどっかから聞こえてきそうな一句。実はウチにも一人居るのよね、独身貴族の娘が……。明日は言いたいこの科白……早く何とかなっとくれ。
*前号の作品から「これは」と思う作品を、四人の選者が読み解くコーナー。あなたのお好みの作品は紹介されましたか?
*会員リレーエッセイ 一期白書〜出合い・出会い・出逢い〜
「夕子さん」 杉山ひとみ
一期白書というお題を頂き、迷わず本誌「現代川柳」会員の岡野夕子さんとの出会いを書こうと思った。文芸としての現代川柳と言うものを、ほとんど知らなかった私は、彼女の川柳を初めて目にして度胆を抜かれた。(中略)
夕子さんとは、あるエッセイ教室で知り合い、川柳をやってみたいという私を、横浜句会に連れて来て頂いたことに始まる。以来、彼女には脱帽することばかりである。(後略)
「いのち」 佐藤暁音
それは三年前、「おとん癌やで」と突然弟に告げられた。人間ドッグで3pの肺癌が見つかり、すでに手術した後だった。
早く赤ちゃんを産みたい、産んで父さんに見せてあげたい。と、とっさに思った。結婚して五年三十五歳になっていた私はすぐに「子どもが欲しいという夢を叶える為にできる限りの事をしたい。やるだけやってできなければ諦められるけど今のままでは必ず後悔する。協力してもらえないならパートナーを変えてでも私は夢を叶えたいと思っている」と脅迫めいたメールを夜勤中の主人に送った。(後略)
「奇跡の一本松」 中野文擴
東日本大震災の被災地応援ツア―に参加してきた。私の参加したのは岩手県の陸前高田市、大船渡市、釜石市、大槌町などを巡って、その被害状況や被災された人たちと話し、悲苦を超えて来られた、または、現在まだ超えておられる方の、生の話を聞くことであった。(後略)
*心に残る出合いについて書かれた会員誌友のリレーエッセイ。あなたの「一期一会」の出合いはなんですか?
その他にもエッセイ・読み物がいっぱい!
BACK