前号秀句十選 2013年11月

*毎回、前号の「群像」(会員自選作品)から、5人の選者が秀句を選んでいます。
さて、前号(33号)の秀句はいかに?

前号秀句十選 久保田半蔵門選

生きようと思う八月十五日      石垣 健
本気にはならぬと抱いている湿度   香月みき
一瞬の花火 この世に残る息     野上藪蔵
稲の花いつかトンボになると言う   金子喜代
知恵の輪が解けたらみんな消えていた 門田 浩
草間彌生池に大きなドット描く   高橋兎さ子
天地人へんだへんだと老い呆ける   杣  游
八月の昭和は胸のど真ん中      中野文擴
掌の中に月を隠していた男     茉莉亜まり
青年の暗さに鳩の首がある      夕 凪子


前号秀句十選 川本 畔選

生きようと思う八月十五日      石垣 健
泣いているのか告げているのか法師蝉 中川 浩
留守につき風をいただくことにする  野上藪蔵
日脚伸び疑心ばかりが伸びてゆく   津村 華
酒よ涙よひばりの歌を飲んでいる   井上 哲
価値観のずれて無口へずれ落ちる   梅田 旬
やわらかい糸に絡まれつつ真昼   中川千都子
雲も無い真っ青な空苦手です     田村 尋
七日目の蝉しっかりと鳴いたかい   夕 凪子
朝顔の蔓をほどけば明日が来る   佐渡真紀子


前号秀句十選 別所花梨選

夕立がドッキリだよとやってきた   丸本うらら
着ぐるみの中ほんとうは泣いている   香月みき
笑ってるうちにカボチャが実をつけて  安井茂樹
おとうとに罪を被せた日の微熱     金子喜代
何もかもピンクに見えた青年期     門田 浩
倖せの種を握って娘は嫁ぎ       鈴木厚子
アンタとは違ってるからワタシなの   太田牧子
チンしたら一応もとに戻ります    中川千都子
雲も無い真っ青な空苦手です      田村 尋
着飾って憎んで泣いてみんな死ぬ    夕 凪子


前号秀句十選     近藤ゆかり選

虫けらは死ねと言われた夏が来た  石垣 健
留守につき風をいただくことにする 野上藪蔵
私がついて来るまで待っている   安井茂樹
途中下車できぬ妻との長い旅    門田 浩
懐かしい痛みに足を掬われる    岡部房子
消し印は遠いふるさと塩の街    松本光江
分別はその後のこと汽車に乗る   岡野夕子
誘蛾灯同じニオイのする人よ    太田牧子
遺された日記の中の俺と飲む    井上青柿
お互いに少し未練という絆    佐渡真紀子


前号秀句十選  夕 凪子選

村に住む回り舞台を押しながら       石田一郎
干満へ石段のある船着場          富田房成
過ちがつっかえている裁断機       佐渡真紀子
回ってるからとうさんは大丈夫      久保田 紺
精一杯涼しい顔でさようなら       若林よしえ
もうこんな時間蛍になる時間        中川 浩
海から空へ まっこうくじら泳ぎ切る   丸本うらら
水色の玉子の中味そらでした       岸本きよの
透明になるまで蹲る月下         茉莉亜まり
生きようと思う八月十五日         石垣 健


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